冬うらら2
¥チーズ盛り合わせ

 運命の余りのイタズラに、タロウはなかなか動き出すことが出来なかった。

 自分の身体の中で爆発が起きたかと思うと、今度は心臓が早鐘のように打ち出す。

 挙げ句、彼の心の電算機であるソロバンが、理解不能なほどの高額の数字をはじき出したのである。

 パチンコ屋の、フィーバーどころではない騒ぎだ。

 クス玉が割れ、白いハトと風船が山ほど空中に飛びだして行く。

 商店街の福引きの一等のカネが、ガランガランと鳴り響く。

 ひゃ、100点……いや、120点満点や!!!!

 ようやく―― タロウは、冷静な判断を下すことが出来た。

 いや、これでもかなり冷静なのである。

 一瞬、400点さえつけそうになって、『あかん! そんな点数、前代未聞や!』と、急ブレーキで踏みとどまったのだ。

 そうでなければ、今頃彼はチキンレースで言えば、ガケから飛び出している状態だったに違いない。

 大体。

 120点でさえ、前代未聞なのだ。

 いままで、『これくらいやったら100点やろ』と、彼がはじき出していた基準を、遙かに上回る印象が、彼女にはあったのだ。

 運命を感じる競馬ウマと会った時以上の興奮に、タロウはなかなか次の動きに出ることは出来なかった。

「えー、この人ウェイターじゃないの? ああもう、どっちでもいいから、はやくこのワイン開けてよ!」

 ぐいと押しつけられる、引き出物のワイン。

 反射的に受け取ったワンコの社長だったが、一瞬胸に触れた彼女の手の感触に。


 バクン!


 心臓が。

 信じられない悲鳴を上げた。

 あ、あかん!

 今日のタロウは、『あかん』ことだらけだ。

 寝坊はするわ、副社長には絡まれるわ。

 しかし、この『あかん』に比べたら、どれもこれも些細でどうでもいいことだった。

 視界にいきなり、ソフトフォーカスだかホワイトフォーカスだかがかかる。

 人生―― ひっくり返った。
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