冬うらら2

 酔っぱらいは、気が短い。

 少なくとも、ハナが酔うとそうだった。

 ウェイターじゃないのは分かったが、この色男が固まったままなのに、彼女はイライラした。

 こんなに頼んでいるのだから、さっさと言うことくらい聞いてくれてもいいのだ。

 一体、どこの唐変木なのかと思っていると。

「す、すみません! まだ、こいつは入社したてで!」

 短気になっているハナに向かって、先輩が必死にフォローしようとする。

「失礼ね! 入社して結構たったわよ!」

 即座に、その好意を無にした。

 先輩の言いようだと、いかにも世間知らずで、会社での人付き合いを知らないかのようではないか。

 彼女だってこう見えても、いろんな複雑な経験をして、ここまで成長してきたのだ。

「バッ、バカ! この人は…ワンコの社長だぞ」

 さすがに、本人を目の前に『ワンコ』とデカイ声で省略名を言えなかったのか、そこだけ不自然に声がひそめられる。

 すぐ側のハナには聞き取ることが出来たが、うまく理解できたかどうかとは別ものだ。

 ワンコぉ?

 いきなりうさんくさげに、相手を見上げる。

 まだ、自分をじっと見ているその丸メガネ。

 よくよく見れば、服装もウェイターのものではない。

 気取った色男というか。

 金の時計も見えて、いかにも成金ちっくだった。

 車はベンツに違いない。

 ハナが、そう決めつけた時。

 ようやく、ワンコの社長とやらは動き出した。

 ワインを抱えたまま、本物のウェイターたちのいるカウンターの方に向かって、早足で歩き出したのだ。

 やっと、彼女の言いたいことを理解して、そのために行動してくれる気になったらしい。
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