冬うらら2

「新婚旅行は、やっぱり海外がいいだろう? おっと、もしかしてパスポートがないかな? あと1ヶ月しかないから、急いで作らないとな…週明けにでもすぐ…」

 海外?? 新婚旅行??

 彼ら二人は、ただの一度だってカイトに相談するような素振りも見せなかった。

 とにかく、まるで『理想の結婚式』を作り上げようとするかのように、いろんな最高レベルのものを持ってくるのである。

 カイト。

 不安になって、また彼の背中を見てしまう。

 本当は、どう思っているのか聞かせて欲しかった。

 彼が『イヤだ』と言えば、メイだって、結婚式なんてどうでもいいのである。

 しかし、カイトはまるで結婚式というものに一切関与したくないかのように、拒絶の背中ばかりを見せるのだ。

 不安なままの彼女は、とにかく大きな決定をされてしまわないように、ソウマたちの膨れ上がる提案を押さえていくので精一杯だった。

 そして、ようやく話を切る隙間を見つけることが出来たのだ。

 それが、夕食の支度。

「ああ、もうそんな時間か」

 ソウマは腕時計を見て驚いているようだった。

「あら、本当…気がつかなかったわ」

 ハルコまで苦笑している。

「こんなに長居する予定じゃなかったんだが…すまんすまん、また明日にでもハルコといろいろ相談してくれ」

 パンフレットは置いていくから、いいのを選んでおいてくれよ。

 身重のハルコを気遣うように、腕を差し出して立ち上がらせながら、ソウマは笑った。

「しかし…せっかくの週末なんだから、彼女に食事を作らせないで、一緒に外食にでもでかけたらどうだ?」

 いくら仕事が忙しいからって、食事をする時間くらいはあるだろう。

 帰るというのに振り返ろうともしないカイトに、ソウマの眉はかすかに寄る。

 でも、怒っていないのは分かった。

 どちらかというと、嬉しそうな目の方が本心で、眉はポーズという感じに見えた。

 ああ、これ以上。

 メイは、彼の言葉を止めたかった。

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