冬うらら2
○フライドチキン

 ああ、また。

 リエは、聞かないフリをした。

 またハナが、騒いでいる声が聞こえてきたのだ。

 1人だけ、飛び抜けた音量を出しているところを見ると、もう出来上がってしまったのだろうか。

 私が、気に病むことなんかないんだわ。

 社長のせいで、ひどく心配性になってしまった自分を、彼女は好きにはなれなかった。

 本当なら、自分はもっと―― 何でももっとうまくやれる。

 そう思っているのに、彼女がきちっと計画したいろんなものを、ハシから崩していく人がいるのだ。

 芸術作品のように積み木を仕上げようとしていたところを、めちゃめちゃに破壊するゴジラのような人たち。

 社長。

 ハナ。

 そして、あの男。

 リエは、ケイタイで電話した時のことを思い出した。

 披露宴会場を出る前のことだ。

 二次会に出席するので、7時くらいに迎えにきてと言った時。

『ええー!! そんなに遅いのかい? せっかく、今日は早く会えると思っていたのに!!!』

 思わずリエは、ケイタイを耳から離した。

 普通にしゃべっているようなのに、どうしてそんなに地声が大きいのだろうか。

 電話で話すと、いつもこうだ。

 5メートル離れていても、電話の向こうの男が何をしゃべっているか分かるに違いない。

『分かったよ! ああでも、早く会いたいなぁ! もう、3日も会ってないんだぜ! それに、14日ってバレンタインデーじゃないか!』

 彼と話していて思うことは。

 むやみやたらに『!』が多いこと。

 何かというと、言葉の最後に感嘆符がつくのだ。

 どうして、そう感情豊かな声を出せるのだろうか。
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