冬うらら2

 むむっ。

 シュウは、素早く店内をサーチした。

 悠長に、運ばれてきたフライドチキンの、カロリー計算をしているどころではない。

 協力会社の社長が、席に戻ってくる兆しがないのだ。

 トイレがいくら長いとは言え、常識で考えても時間がかかりすぎである。

 ピコーン、ピコーン。

 シュウの眼鏡に、標的がロックオンされる。

 見れば、一番鋼南電気の開発社員が多いエリアで、飲んでいるではないか。

 そう来ましたか。

 こうなると、彼だってトイレというものが、口実であったことに気づく。

 副社長の側では、情報収集が出来ないと判断したのだろう。

 うまくかわして、一番核心エリアに突入したのである。

 開発―― それは、鋼南電気の一番重要な部分である。

 営業も経営者も、売るものがなければただのデクノボウだ。

 いいものを作る。

 それが、開発の仕事。

 いかに斬新で画期的で面白いゲームを作るか。

 いくら、シュウ自身がゲームをやらないからと言っても、そういうものが求められていることくらいは分かる。

 一応、これでもゲーム雑誌には目を通すのだ。

 いまどんなゲームが求められていて、なおかつ自社の商品がどの程度評価されているのか。

 カイトが絡んでいるゲームは、いつも絶賛されている。

 ということは、あの社長には社長席に座っている以上の、付加価値があるということだ。

 しかし、いまは自社社長のことを考えているよりも、他社社長の動向の方が気になる。

 シュウは素早く立ち上がり、彼の座っているエリアに向かって歩き始めた。
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