冬うらら2
□12
 カイトは、上着を掴んだ。

 彼は、それですべての答えを教えているつもりだったけれども、メイの方は、きょとんとそこに立ちつくしているだけで。

 仕方なく、苦手な言葉を使わなければならないのだ。

「出かけるぞ」、と。

「え? 出かけるって、どこに?」

 こんな時間から。

「あの…せめて、夕ご飯を食べてからにしません? すぐ作りますから」

 言葉に、カイトは眉を寄せた。

 どうして、まだ彼女は分からないのか。いままでの話の流れを考えれば、カイトがどこに出かけようとしているか、想像がつきそうなものなのに。


 そのメシを食いに行くっつってんだ!


 彼は、短気な怒鳴りを心の外には出さなかった。

 内側のカマの中でイライラと一緒に煮詰まってはいるけれども、吹きこぼさなかったのである。

 いままで、この怒鳴りグセのせいで、何度彼女をおびえさせたか。

 それくらいは、カイトだって学習をしているのだ。

 代わりに、余計に無口になってしまった。

 どんな言葉を彼女に使ったらいいか、未だによく分からないでいる。

 この世の中には、自分をあまりにみっともなくしてしまうものが多かった。

 彼女には、何でも出来るスーパーマンに見て欲しいのに、それを覆す項目が多すぎるのだ。

 第一。

 いまカイトは、自分の妻を夕食に誘う言葉さえ、ロクに選べなかった。

「メシ…食いに行くぞ」

 ぼそっ。

 ほら。

 精一杯の言葉が―― この程度なのだ。
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