冬うらら2

「何や…」

 すぅっと眠ってしまったハナの、栗色の髪を撫でる。

「何や…ほんまに、胸にズガーンってくることあるんやな」

 このまま、連れて帰りたいわ。

 勿論、そんな危険な考えは不可能である。

 タロウが住んでいるのは、西部なのだ。

 新幹線で、3時間は離れている。

 おまけに彼女は鋼南電気の社員で、それでもって、この性格だ。

 もしも連れ去ろうものなら、『バカ、大ッキライ!』くらいのお言葉はいただけそうである。

 恋愛にも物事にも、順序っちゅーもんがあるんや。

 それは、彼だってちゃんと知っている。

 これまで、愛の救世主タロちゃんだったのだ。

 女の口説き方も、愛し合い方も知っている。

 が。

 しかし。

 ごっつマジや。

 自分のことくらい、これまでの付き合いで知っている。

 そんな自分が、ここまで本気になるとは。

 あかんなぁ。

 赤い頬。

 赤い唇。

 閉ざされた、長いまつげ。

 愛の救世主も、そんな栗毛の牝馬には形ナシだった。
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