冬うらら2

「コウノの全盛期のゲームをやったことあります? この場合は、大学時代、ということになるんでしょうが」

 そう言われても、ソウマは首を横に振るしかない。

 コンピュータは、いろんなところでお世話にはなっていたが、コンピュータゲームは、ほとんど手をつけていないのだ。

 特に、彼が大学生ごろのモノなど、見たことがあるものの方が少ないだろう。

 いまでこそ、一応鋼南から発売されたゲームを、自宅に揃えてはいるものの、ハルコもソウマも、とてつもなく長くかかるRPGやシミュレーションとやらを、クリアするまで打ち込んだことは、ほとんどなかった。

 ただ、2人で話のタネにするのだ。

『ああ、カイトはまたこんなのを作って』、とか。

『男の子の夢なのかしらねぇ…こういうのは』

 メカが出てきたり、武器が出てきたり。

 主人公は誰よりも強くなり、現実の人間からは信じられない芸当をやってのける。

 そして―― 死と愛に直面する。

 擬似的な、スリルと興奮。

 美しいビジュアル。

 しかし。

 カイトのゲームには、いつもどこか本当に憎むべき存在がいた。

 最近のゲームは、敵方であっても憎めないとか、本当は敵にもつらい過去があったとか、そういうプレイヤーの共感を呼ぶようなものが多いらしい。

 だが、カイトの作るゲームは違う。

 本当に憎悪の対象となる存在が、いつも森の影に隠れているのだ。

 わずかな隙をついて、いつだって襲いかかってくる気がする。

 鋼南電気で、1年半ほど前に発売されたゲームだけは、ソウマはクリアしていた。

 発売された当時は、売り切れにつぐ売り切れだったのと、彼も伝説の事件とやらの出来事の頃で、プレイしたのはかなり後のことだったが。

 確か、「BADIA」とかいう名前だったか。
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