冬うらら2

 今度は、チョコレートですか。

 お酒を提供する店の食べ物で、身体によさそうなものはほとんどない。

 どれもこれも、高カロリー高脂肪、塩分糖分高め、消化に悪そうなものばかりである。

 付き合いでもなければ、シュウがそれに手を出すことはなかった。

 とりあえず、Wanted-corporationの社長が無力化したことで、副社長の仕事は、ほとんど失われてしまった。

 彼に語りかけてくるような鋼南の社員など、まずいない。

 それぞれ騒々しく、駄菓子を口に運びながら、水割りと言ったところだ。

「作りましょうか?」

 水割りの材料は運ばれてきたものの手つかずだったところに、思い出したようにハルコがやってくる。

 さっきまで、社長秘書としゃべっていたようだったが。

「いえ…」

 接待でもないのに、飲む気はなかった。

 なのに、ハルコは隣に座ると、さっさと水割りを作り始める。

 人の話を、聞いてはいないようだ。

「そうそう、シュウ…」

 出来上がったグラスを差し出しながら、彼女は笑顔を浮かべる。

 この笑顔で、いくつ他社の責任者を、陥落させたことか。

 あの頃のハルコは、秘書以上の仕事までしていた。

 最初は、ごく少人数で始めた会社だ。

 あっという間に大きくなったが、確かにあの時『カイトの才能』と『シュウの才能』と『ハルコの才能』の3つがなければ、こんなに速いスピードではなかっただろう。

 それは、彼も十分に認めているところだった。

 経営サイドの一つの仕事として、接待が大事であることも、ハルコが理論的に提案してくれて、ようやくシュウは納得したのだ。

 彼女のような、笑顔を振りまく才能はなかったが。

 そんな過去があるせいか、どうにも彼女の意見には耳を傾けてしまう。

「何でしょう」

 とりあえず、グラスを握るまではした。

「今夜は、家に帰らないであげて」

 しかし。

 彼女の口から出てきたことは、仕事上のこととはとても思えない―― そして、シュウの想像を超えた内容であった。
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