冬うらら2

 グラスを持ったまま、元秘書の方を見る。

 いま家にいるのは、おそらくカイトとその奥方だ。

 同時に、シュウの家でもある。

 現在役所に提出している住所は、間違いなく彼らと同じもので。

 その家に帰るな、とはどういうことなのか。

「今日だけは、そうしてあげて…あの2人も疲れているだろうから、静かにしておいてあげたいのよ。大変な式が終わったばかりだし」

 ね?

 ね、と言われましても。

 その式に、問題があったのではないですか、とシュウは渋い表情を浮かべた。

 本当なら二次会に出ずに、家に直行して、今日のことについていろいろ説明を受けようと思っていたのだ。

 なのに、タロウ氏が二次会に来るという情報のために、彼は予定を変更した。

「今日の一件なら、問いただしてもダメよ」

 面白そうに、ハルコは笑う。

 そんな彼女は、チョコレートを一つつまみあげると、しばらく逡巡した。

 最後は、まるで思い切ったみたいに、口の中に入れた。

 甘いものが好きな彼女にしてみれば、珍しい様子である。

 笑顔の中に、どこか罪悪感があるような。

 しかし、それはシュウに向いている思いではないようだ。

「きっと今日の件を蒸し返そうとすると、カイト君は怒鳴るわよ…『人の式に口出しすんじゃねー! んなこと、どうでもいいだろ! 仕事しろ!』って」

 罪悪感のチョコレートが終わった後、ハルコは社長の口まねをして見せた。

 確かに、彼のことをよく分かっている発言である。

 シュウの予想でも、それに近い返答は選択肢の中に入っていた。
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