冬うらら2
□二次会をすっぽかした二人

「……!」

 瞬間、それを自覚するより先に、カイトの体温がぱっと跳ね上がったのが分かった。

 いま。

 彼は、メイに抱きしめられているのだ。

 精一杯身体を伸ばして、できるだけ近くにいたいかのように。

 パニックの上にパニックがかぶり、彼は更に動けなくなってしまった。

 何故泣いたのかも。

 何故抱きしめられるのかも、どれも全然理解出来ないのだ。

 落ち着こうと、努力し始めたのに。

「私…」

 自分の頬の側で、彼女の吐息がかかる。

 涙のせいか、掠れて少し温度の高い声に鼓膜を直撃され、カイトは更にストップの魔法をかけられた。

 ただ裏腹に、心臓だけがバクンバクンと音量を上げていく。

「私………カイトのものに…なりたい…全部」

 こんな言葉を。

  理由なんて。

 こんな言葉を、すぐ間近で。

  理由なんて、もう。

 好きな女に、こんなことを言われて。

  全部後回しだ!!!

「きゃぁっ!」

 衝動的に動いたカイトに、彼女の悲鳴がかぶる。

 手荒な動きだったのは、後にならなければ思い出せないくらい―― そのくらい、いまのカイトは頭の中がとんでもない事態だった。

 強引に、メイの身体を抱き上げて。

 わさわさしたドレスの部分で苦労したとか、そういうことは、この時何も記憶には残らなかった。

 女1人抱え上げ、階段を走り登り。

 廊下を駆け抜け。

 部屋の扉を蹴り開け。


 そんな途中経過なんか。


 カイトは、どうだってよかったのだ。
< 586 / 633 >

この作品をシェア

pagetop