冬うらら2

「まあまあ、せっかくいらしたんだから、そちらに座られたらどう? 何か飲み物でも頼みましょうか?」

 すかさず。

 ハルコは、場を和ませるために柔らかい声をかけた。

 初対面だが、わざと親しげな雰囲気を出す。

 こうすれば、周囲の人の好奇心も、少しくらいは薄れるのではないかと思ったのだ。

「え、いいんですか?」

 素直な笑顔が返ってくる。

「勿論よ…お酒は何が好きかしら?」

 何だか、可愛らしく見えてしまう。

 ハタチはとうの昔に越えているはずなのに、少年というか犬のような無邪気な目を持ち続けることが出来るなんて、この時代では物凄く貴重なことにも思える。

「俺、車なんで酒は……あ! それじゃ、コーラを!」

 ぱっと。

 青年の視線が、下に落ちる。

 そこには、自分の身の置き場に困っているウェイターが、まだいたのだ。

 その男に向かって、彼は注文をはっきりと伝えたのである。

 リエだけしか、見えていなかったワケではないようだ。

 しぶしぶ―― ややそんな雰囲気で、ウェイターは立ち上がるとカウンターへ戻って行った。

 ハルコは。

 笑いをこらえるので、必死だった。

 あの、リエに気のあるウェイターの心情を考えると、もうどうしようもなくおかしかったのだ。

 いきなり現れた元気な青年に、リエの存在をかっさらわれただけでなく、トドメとばかりに、コーラを持ってくるよう言われたのである。

 そんな事情は知らないだろうが、とんでもない大物である。

「ああよかった…本当は、あと30分外で待ってるのは寂しかったんだ」

 ばさばさっとジャンパーを脱ぎながら、ちゃっかりリエの隣に座る。

 ちょうど、彼女の周囲には空席があったので、ハルコも反対側に座ることが出来た。

 ステキな彼じゃない。

 ハルコは、そうリエに言おうとしたのだが、彼女のオーラがその言葉を拒絶していた。
< 596 / 633 >

この作品をシェア

pagetop