冬うらら2

 何てこと、何てこと、何てこと!!!

 怒りの余り、リエは口もきけなかった。

 いま、自分の隣に腰掛けて、コーラなんかを飲んでいる男ときたら、本当に信じられないツラの皮である。

 これで、悪気がないと来ているから、余計に腹が立つ。

 何のために、リエが少し早くこの店を出ると、ハルコに言ったのか。

 こんな騒ぎを、起こさないためである。

 うっかり店の中まで迎えにこられたら、恥ずかしい思いをするのは自分なのだ。

 社員が、山ほどいる中で。

 明日からも、毎日顔を突き合わせなければならない人間がたくさんいる中で、どうしてこの男を披露しなければならないのか。

 まあ、ステキよねぇ。

 さすがリエさんの彼氏よねぇ。

 そう言われるような男であったなら、彼女は鼻高々で店の中まで迎えに来てもらったかもしれない。

 しかし、いま自分と付き合っている男は――

「寒くてもコーラはうまいですよねー…そう思いません?」

 などと、とんでもなく知能指数の低い言葉を、あのハルコに向けているのだ。

 ああ、恥ずかしい、恥ずかしい!

 穴があったら入りたいどころか、いますぐ消えてしまいたいくらいだった。

 社員たちが、全員こっちを見て、笑っている気がする。

 あれが彼氏?

 そんな嘲笑が、聞こえてきそうだ。

 もうウェイターの視線なんか、彼女は気になりもしなかった。

 こんなところで、場違いな太陽光線をサンサンと振りまくこの男を、とにかくどうにかしなければならない。

 1分時が過ぎるごとに、自分の会社内における立場が、ボロボロになってしまいそうだったのだ。
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