冬うらら2
ω
 彼には野生のカンがあるようで、こういうのは割と当たるのだ。

 しかし、問題があった。

 カウンターやテーブルの辺りに、ウェイターがウロついてはいるものの、さっきのが一体どの男だったのか、既にツバサは覚えていなかったのだ。

 顔を覚えるのが、どうにも苦手なんだよなぁ。

 あははは。

 頭をボリボリかきながら、よぎった野生のカンを投げ捨てた。

「それじゃあ、帰ろうか」

 彼女がイヤな思いをしてまで、この場所にとどまっている必要はない。

 それよりも、早く二人きりになって、機嫌を直してあげたかった。

 楽しい話をいっぱいしようと、ツバサは決めたのだ。

 彼が先に席から出ると、リエも足早についてくる。

「それじゃあ、みなさん失礼します。ごゆっくり!」

 挨拶もせずに出ていこうとする彼女に驚いて、ツバサは代わりに店内に声をかけた。

 挨拶は、人間関係の基本だ。

 大事なことである。

「いいから、早く!」

 リエの動きは、スポーツインストラクターの彼が、感心するほど早かった。

 腕をぐいっと掴むと、どんどん出口に引っ張っていくのだ。

 あはは、熱烈だなぁ。

 その腕の強さが、愛情の強さのように感じて―― 幸せを味わうツバサだった。
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