冬うらら2

 うるさ。

 ハナは、枕の上で頭を動かした。

 人がせっかく、気持ちいい思いでウトウトしているというのに、やたら騒々しい声が届いてきたのだ。

 彼女の記憶には、ない声で。

 芸人でも来ているのかと思うほどだった。

「何…?」

 まだ、身体が水平に近い状態を維持したがる。

 目も開けたくなかった。

 このまま、気持ちのいい枕で、ずっと眠りたいくらいだったが。

「ああ…何や、秘書さんのカレシが来てはったみたいやな」

 彼女の質問に答える声には、聞き覚えがあった。

 ワンコだ。

「ふ~ん…秘書カレか………えっ?」

 パチッ!

 ハナは、その濃紺の目を、めいっぱい見開いた。

「秘書って、鋼南電気の秘書!?」

 ガバッと、勢いつけて飛び起きようとしたが、酒が彼女を掴んで離さない。

 またも、ヘロヘロと崩れそうになったところを、誰かに支えられてしまう。

「あかんって、もうちょっと寝とき」

 誰かというまでもなく、やっぱりワンコだったが。

 く…。

 く、く……。

 クヤシー!!!!

 再びヘロヘロと、ワンコになつくようにつぶれながら、しかし、彼女の頭の中は悔しさガスが充満していた。

 鋼南電気の秘書といえば、あの有名なリエ・アヤコウジだったか、タナコウジだったか―― ハナは、彼女のフルネームをしっかりまだ覚えていなかった。

 しかし、社長秘書のリエといえば、有名人も有名人である。

 あの、社長の秘書をしているということでも一目置かれていたし、美人であることは彼女も認めていた。
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