冬うらら2
♪アイスクリーム

 果物は、確かに冷たかった。

 けれども、ハナはそれでは満足しきれなかった。

 まだ、身体の中には火があるように熱いのだ。

 飲み過ぎたお酒が、完全に抜け落ちていないのである。

 そんな彼女にとっては、ラッキーなカモがいた。

 何故か、甲斐甲斐しく面倒を見てくれる男がいたのだ。

 普段のハナであれば、そういう男は激しく突っぱねたに違いない。

 酒で判断力が狂うとは、まさにこのこと―― が、この時の彼女は、それについて思考を深めることは出来ないままだった。

「もっと冷たいのがいい……アイスー」

 こうやって、ワンコにくっついていると、やっぱりそれだけでも熱いのだが、ひきはがす力がない。

 だから、もっと冷たいものを要求するのだ。

 まるで。

 カゼで寝込んだ時に、お姉ちゃん’Sに、面倒を見てもらう時と似ていた。

 アイスー。モモカン。プリン。

 カゼでなくてもワガママ系のハナは、カゼになってもやっぱりワガママだった。

 1号も2号も、「ハイハイ」と苦笑しながら、何なりと用意をしてくれるのだ。

 しかし、彼女らとはギブ&テイクの関係でもあった。

 1号が寝込んでも2号が寝込んでも、一応ハナはちゃんとワガママを聞いてあげるのだ。

『こんな時期にカゼひくなんて、バッカじゃない?』とか、『うつさないでよ~』とか、余計な一言が、必ずオマケでついていたけれども。

「ア、アイスやて? ほな、ちょっと待っててや…」

 身体の角度が、変えられる。

 さっきまで、へばりついていた身体がゆっくり引き離されて、壁にもたれさせるように置いていかれる。

 すぅっと。

 さっきまで接触していて熱かった感触が、消えてなくなる。

 ずっと、目を閉じていた彼女だったが、その変化に薄目を開いた。
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