冬うらら2

「おはようございます!」

「うむ、おはよう」

 アオイ教授の、朝は早い。

 昨日から、研究のために泊まり込んでいたらしい学生たちに挨拶をされながら、さわやかな朝の冷気に包まれたキャンパスを歩くのだ。

 これが、健康のためによいと信じていた。

 この美しい朝靄の光景について、詩が口をついて出ようとするが―― 彼は、ぐっとこらえた。

 詩の趣味は、自分だけの秘密だったのだ。

 教授としての立場が、そうさせるのである。

 いつか。

 教授という職業から引退した後にでも、違う名前で詩集を出版しようと思っていた。


 昨日の、異常な披露宴のことを忘れ去り、いまのアオイは、朝をたたえる詩を、頭の中に巡らせていたのだった。

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