冬うらら2

「帰ってよ……」

 携帯の呼び出し音を聞いて、彼女は現実に戻ってきてしまったのだろうか。

 そう通達され、シンは―― 布団から出た。

 昨夜。

「本日定休日」の、札がさがっている居酒屋の前に、シンは立っていた。

 そう書いてあるのに、中は明かりがついている。

 横開きのガラスのドアに手をかけると、カギはかかっていなかった。

 店の場所は、彼女が残したマッチから分かっていた。

 披露宴の終わったシンは、そのままの足で店にたどりついたのである。


「また来る」


 最初から、取る気のなかった携帯のベルが途切れる瞬間。

 身支度を整えていた彼は、そう言った。

「……」

 返事はなかった。

 しかし、イヤなものは絶対イヤという女であることを、シンはよく知っていた。

 イヤと言わないということは、それはキライなことではないのだ。

 フッと、気づかれないように笑みをたたえてしまった。

 どうやら。

 暗い夜の時代が、終わりそうだった。

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