冬うらら2

「へ?」

 タロウのメガネがズリ落ちる。

 そこは。

 派出所だったのだ。

 唖然としている彼を横目に、陽気なハナはバンとドアを開けると。

「キズオー!! キズオー!!!」

 と絶叫し始めたのである。

 出てきたのは―― むっちゃ体格のいい、なおかつ警官の制服をきた、更にもう一個、顔に傷のある男だったのである。

 やれやれと、呆れ困ったような顔をした後、男は彼女をパトカーで送って行ってしまったのだ。

 そしてうっかり、タロウの手には彼女の上着が残ってしまった。

  ※


 何や。

 タロウは、面白くない感情を胸によぎらせた。

 彼女の周囲には、やたら男の影があるのだ。

 鋼南電気の社長に副社長、あの強面の警官。

 とんでもないメンバー揃いと来ている。

 負けへんで。

 しかし。

 いまのワンコの社長の辞書に、『あきらめる』という単語だけはなかった。

 幸い、このジャケットという口実もあるのだ。

 ポケットの中に突っ込んであった口紅と、その色の唇をしていた女のことを思い出して、リベンジに燃えるタロウだった。

< 625 / 633 >

この作品をシェア

pagetop