冬うらら2

 彼女を。

 両親に。

 紹介?

 詳しく翻訳すれば。

 メイを。

 カイトの親に。

 自分の妻になる相手だと―― いや、もうなっている。

 またも、カイトの頭の中からは、スコーンと抜け落ちていた。


「別に!」


 反射的に出た声は、あまりに大きくて。

 次の瞬間に、自分がいま会社の開発室にいるのだと思い出してしまった。

 振り返ると、みんなが何事かと彼の方を見ている。

 クソッッ。

 仕事しろ! という目で睨むと、全員がそそくさと持ち場に戻るが、気配でこっちを気にしているのが分かる。

 コードレスであることをいいことに、カイトは開発室から逃げ出した。

「別に…そんなん、しなくてもいーだろ」

 メイと結婚するのは自分であり、両親ではないのである。

 ここ1年の間に、電話で1回話したかどうかの相手に、どうして彼女を紹介しなければならないのか。

 廊下とはいえ、社員が通りかかることもあるし、意外と室内より声が反響する。

 カイトは、無意識に奥の方へと歩いていた。

『おいおい…まさかその言葉は、本気じゃないだろうな』

 電話の声が苦笑に変わる。

 自分の親なんか、今のいままで思い出しもしなかった、薄情な息子なのである。

 別に、家を飛び出したワケじゃなかった。

 親と取り立てて不仲なワケでもない。

 ただ、息子はやりたい放題で生き、両親は堅実に生きているだけだ。

 別々に暮らした方が、お互いのストレスにならないのである。
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