冬うらら2

 お互い思って結婚した。

 婚姻届も出した、でいいではないか。

 それなのに、結婚した途端、次から次へとカイトに難題が押し寄せてくる。

 結婚式だの、親への紹介だの。

 この分では、毎日一つずつ何か大きな仕事を片づけている間に、新しい課題がもっとすごいスピードで山積みされそうな予感があった。

 きっと、これだけでは終わらないだろう。

『とにかく…ちゃんと紹介するんだぞ……本当は、昨日の夜帰りぎわに言おうと思ったんだがな』

 そこから、ソウマは少し言葉を濁した。

 言いにくそうに。

「……?」

 何に引っかかっているのか分からずに、カイトは横目で受話器を見た。

 困ったような苦笑をしているように思えたのだ。

『いや…その…彼女には、親御さんがいないワケだろう? どうにも、その前では…言いだしにくくてなぁ』

 ああ。

 言われて、初めてその事実も思い出した。

 必要なのはメイだけで、そのバックグランドに興味を示しているヒマはなかったので、すかーっと忘れ去っていたのである。

 普通なら。

 頭をさげて、メイの親からお嫁にもらわなければならなかったのだ。

 いまみたいに、勝手に婚姻届など、絶対に出せなかっただろう。

 それもあったが。

 本当に、ソウマという男が、妙に細かいところにまで気の回る存在だということも、改めて感じさせられた。

 ただ、カイトをからかうためだけに現れて、何もかも傍若無人にやりたい放題かと思っていたら。

 メイのためを思って、言葉を控えさえしていたのだ。

 フン。

 ソウマをホメるとなると、途端に身体が落ち着かなくなる。

 だから、決してホメない。

 ただ、彼の言葉に素直に答えてやることにした。

「分かった…今度の週末にでも行ってくる」

 受話器は、その瞬間何もしゃべらなかったが、相手がにこっと笑った感触が伝わってきて―― 彼を、ますます落ち着かなくさせたのだった。
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