冬うらら2
●14

「はい、ウェディングドレスのカタログ、こっちは披露宴のプラン」

 メイは、目を丸くした。

 朝からハルコがやってきたかと思うと、昨日よりももっとたくさんのパンフレットを抱えてきたのである。

 一体、いつこれだけのものを揃えたのか。

「あら、どうしたの?」

 驚いて突っ立ったままの彼女に、逆に椅子を勧められて、すごく妙な気分がした。

 この家は、まだ自分よりもハルコの方に従順に思える。

 ダイニングの席に隣同士に座りながら、めまぐるしく目の前のパンフレットを差し出されては、頷かされる。

 首をちょっとでも横に振ろうものなら、ハルコが『カイトくんが怒るわ』とか、『遠慮しちゃだめよ』などという攻撃で、彼女を屈服させようとするのだ。

 メイは、かなりあせりながら、彼女の相手をしなければならなかった。

「お、お茶入れてきますね!」

 少し落ち着きたくなって、メイは調理場の方にぴゅーんと消えた。

 一息おかないと、何でもかんでもイエスと言ってしまって、後からとんでもないことになりそうだった。

 式を挙げることへの不安は、昨日よりもだいぶ薄れた。

 カイトがしっかりとした声で、式を挙げると言ってくれたのだ。

 あのカイトが、そこまで言ってくれるなんて。

 パタパタとお茶の準備をしながらも、心はあのまっすぐに自分を見つめていた瞳を思い出していた。

 照れたカイトではない。

 そういう時の彼は、視線をそらしてしまうのだ。

 結婚して、少し翻訳できるようになったことの一つだった。

 しかし、昨日まっすぐに見つめてくれた彼は違う。

 メイの不安に気づいているかのように、それをすぱっと斬り捨ててくれたのだ。

 まだ、残骸は彼女のスカートの裾に、へばりついているけれども。

 けっ、こ、ん、し、き

 ウェディングドレスとライスシャワー、祝福の声。

 ふぅ。

 メイは、ため息をついた。

 全然、実感はわかなかった。
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