冬うらら2

「さて、ドレスをどうしましょうか? いいデザイナーも近くにはいるんだけど、1ヶ月と式が迫ってるものねぇ」

 ようやく、バレンがタインでデーな衝撃が落ち着いた頃、最初から落ち着き続けていたハルコが、カタログを置きながら切り出した。

 デザイナー!?

 またも、どうしたらいいのか分からない言葉に噛みつかれる。

 結婚式のウェディングドレスなど、普通は貸衣装が相場ではないのか。

 買うだなんて考えたこともないし、その上デザイナーなんて言われた日には。

「かっ、貸衣装でいいです!」

 とにかく、ハルコから馬鹿げた考えを振り払わなければならない。

 そんなドレスなど着たら、絶対に身体が腫れ上がってしまいそうだ。

 ハルコは、苦笑していた。

「いいじゃないの…一生に一度なんだし、あなたが綺麗な方が、きっとカイト君も喜ぶと思うわよ」

 貸衣装でも十分、馬子にも衣装です!

 叫びそうになった言葉を、ぐぐっと飲み込む。

 否定の色を見て取ったのか、ハルコが寂しそうな表情をしたのだ。

「あのね、メイ…私にしてみれば、あなたやカイト君は、妹や弟みたいなものなのよ。そんな二人の結婚式なんですもの。出来るだけ華やかにしたかっただけなの…そうね、分かったわ。ウェディングドレスは、私からのプレゼントにするから。ね? そうすれば、カイト君には悪くないでしょう?」

 何が。

 何が分かったのか。

 ハルコが流す言葉の音楽は、ラストに一番とんでもないサビをつけたのだ。

 ウェディングドレスをプレゼントするから、着て欲しいというのである。

「そ、そんな! とてもお世話になったのはこっちの方です! お返しをしなきゃいけないとしたら、私の方で…」

 何とか彼女を説得しなければならないと、メイは一生懸命言葉を探して頑張った。

 そして、気づいてみれば。

 それじゃあ、プレゼントという話はなしにして、カイト君にウェディングドレスを作っていいかOKが出たら、そうしましょう―― などという結論に引きずりこまれていたのである。
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