冬うらら2

 ああ、どうしよう!

 その事実に気づいて、呆然としていたのろまなメイを横目に、さっとハルコはケイタイをかけてしまったのである。

 止める暇もなかった。

「あ、イチハラです……あら? ソウマもかけたの? そう…いえ」

 一見、ハルコはなごやかなムードでしゃべっているけれども、何となく向こうの反応が剣呑としているように思えた。

 時計を見ると、午前中のモロ仕事タイムである。

 ウェディングドレスのことで、仕事の邪魔をしているのだ。

 しかし、かけているのは自分ではないので、どう止めることも出来ない。

「ああ、はい。それで、ウェディングドレスの件だけど……もしもし?」

 長い沈黙は何だったのか。

 電話の向こうが、その話題に呆れたせいか。

 今日、カイトが帰ってきたら不機嫌なのではないかと、彼女はオロオロしながら、早く電話が終わることを希望していた。

「はい、それじゃあそうします…はい」

 ケイタイをピッと切って、ハルコは笑顔で振り返った。

 それが答えだ。

「何でも勝手に決めろ、ですって」

 にこにこー。

 メイは、がっくりと肩を落とした。

 きっとカイトのことだから、かなり怖い声で言ったに違いないというのに、どうしてハルコはこんな風にすごく楽しそうにしていられるのだろうか。

 しかも、勝手に決めろというのは。

 一見、承諾のように見えて、実は不愉快に思っているという現れではないのか。

 彼女が混乱したままだと言うのに、ハルコの話は先に進んでいた。

「一応、デザイナーにも当たってみようかしら……近場で言えば、トウセイ・ブランドかしらねぇ…」

 さらっと。

 何気なく出された言葉は。

 メイの記憶の泉の中に。

 巨大なマンモスを投げ込んだ。


 バッシャーン!!!!


「あ、ああー!!!!!!!」


 わ。


 忘れてた。
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