冬うらら2
□15
 定時に、会社から出てきてしまった。

 後はもう、家でやることにしたのだ。

 いろいろ後ろ髪引かれるところはあったが、今日は魔法がかかってしまったのである。

 カイトは、開発室の喧噪を引きちぎって、自宅に帰り着いた。

 魔法。

 今日は、仕事中に二人の市原から電話が入ったのだ。

 どちらもメイに関することで、見事に仕事の邪魔をしてくれた。

 親への紹介だの、ウェディングドレスのオーダーだの、カイトの中にあるメイ・ノートに、バシバシと彼らの字で予定が書き込まれていく。

 彼らがやる気を出せば出すほど、いろいろ心配にもなるのだ。

 自分がいない間に、一体彼女に何を吹き込んでいるのか。

 これから納期が終わるまで。

 週に一度だけは、早く帰る。

 などと、自分に妙な制約をかけた。

 その一度というのが、たまたま今日なのだ。

 自分にたくさんの言い訳をしながら、彼は玄関のドアを開けた。

 彼女がいた。

「お帰りなさい」

 にこっと。

 メイは微笑んで、カイトを出迎えてくれる。

 その顔を見るとほっとして、抱きしめずにはいられなくなった。

 ぎゅっと、自分の身体に強く押しつけるように引き寄せた。

 彼女の匂いだ。

 なのに。

 メイは、胸の中ではぁとため息をついたのだ。

 変な違和感に気づいて、カイトはふっと腕を緩めた。

 そうして、彼女の表情を伺う。

「あ、今日の夕ご飯は……」

 きっと、献立の内容でも言おうとしたのだろう。

 彼の、視線の意味など気づかずに。

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