冬うらら2

「時間が余ってるんだったら、何か趣味のことでもしたら?」

 そう言われたのは、スーパーマーケットの魚売場の前。

 いつもの通り、メイがじっくりと魚の瞳を見つめて、吟味している時だった。

 死んだ魚の姿は怖くない。

 何しろ、魚屋さんと親しくしていたのだ。

 確かに子供の頃は怖かったのだが、そこのおねーさんが魚についてたくさんの話をしてくれたので、その内にお頭つきの魚も怖くなくなっていた。

 3枚におろす方法も、お刺身の切り方も教えてもらった。

 趣味。

 ハルコにいきなりそう言われても、ぱっとは思いつかない。

 何でもちょっとずつ好きで、でも、何でもうまく出来るというワケじゃなかった。

「そうねぇ…たとえば、あの家は庭が広いからガーデニングとか…ああ、まだ寒いわね」

 魚の吟味以外で悩んでいることに気づいたのか、ハルコが助言をくれた。

 いい案だったが、確かに彼女の言うように、まだ寒い。

 チューリップの球根って、いつくらいに植えたらいいんだろう、とぼんやり彼女は考えた。

 それくらいだったらできそうな気がしたのだ。

 夏になったら、朝顔とかヒマワリとか、と考えかけて、自分のガーデニング・レベルが、小学生の夏休みの観察日記レベルであることを知って、恥ずかしくなった。

 でも、観葉植物くらいあってもいいかなぁ。

 彼女の心は、植物モノに引きずられていた。

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