冬うらら2

『もしもし?』

 ショックの余り、カイトがしばらく無言だったために、シュウが怪訝な声で問いかける。

 そうなのだ。

 あの男は別に開発ではないので、自分の仕事さえ終わればいつでも帰ることが出来るのだ。

 そうして、たまたまメイより電話に近いところにいたのだろう。

 いつものクセで、電話を取ってしまったのだ。

「オレだ…」

 不機嫌をあからさまに表に出して、カイトは言った。

『ああ、カイトですか? 携帯でないとは珍しいですね…会社の方が、どうかしましたか?』

 名乗らなかったけれども、きっと声で分かったのだろう。

 しかし、シュウは怪訝の声を解かずに、続けての質問に入ったのだった。

 珍しい事態のせいだ。

 おめーに用はねーんだよ! とっととあいつと代われ!

 この男に向かって、そうはっきり怒鳴ってやれたら、どんなに気持ちがいいか。

 しかし、言えなかった。

 言うと、自分がいかに彼女が好きで、気になって、挙げ句電話をしているのだということが、シュウにバレてしまうからである。

 いや、全て本当のことなのだが―― それを、メイ以外の人間に知られたくなったのだ。

「おめーにじゃねぇ…」

 しかし、電話というものは、言葉でないと相手に何も伝えることが出来ない。

 視線とか態度とか、そういうもので匂わすのは不可能なのだ。

 だから、絞り出すようにうなり声で言った。

『は?』

 こういう時ばかりは、察しの悪い男だ。

 やはり、怒鳴らなければならないのかと思いかけた時。

『ああ…分かりました。代わります』

 一瞬、何かに気を取られたような反応を見せた。

 シュウにしては珍しかった。

 とにかく、メイのことだと察したようで、あとは彼女を呼んで来てもらうのを待つだけだった。

 のだが。

『もしもし…カイト?』

 ものの2秒とかからなかった。
< 91 / 633 >

この作品をシェア

pagetop