冬うらら2

 気を抜いていた瞬間に、いきなり耳に届いたメイの声に、目玉が飛び出しそうになるほど驚く。

 テレポーテーションでも、使ったのかと思うくらいだった。

 しかし、気づく。

 さっきシュウは、すぐ側まで彼女が来たことに気づいたのだ。

 だから、カイトが用があるのは、自分ではなくメイなのだと察したのだろう。

 しかし、不意打ちで聞くには、余りに心臓に悪い声だった。

 思わず胸を押さえる。

「もうちょっと遅くなる…ちゃんと食って寝とけ」

 ああ。

 言って後悔する。

 もっと、最初に言うものがあるはずだ。

 いきなり、すぐ電話を切りたいかのような、結論を突きつけるような言葉を使わなくても。

『そう…でも、大丈夫…待ってる』

 しゅーん。

 声が沈んだのが分かった。

 カイトが、沈ませてしまったのだ。

 うぅ。

 同じ内容でも、もっとオブラートにくるんだような、柔らかい表現があるはずなのに。

 しかし、カイトの中の薬局では、オブラートは売ってないのである。

「待つな…寝てろ……ぜってー、帰ってくっから」

 どうにも。

 言葉の表現とは難しい。

 絶対帰ってくるから寝てろ、とは妙な表現である。

 普通なら、『帰ってこないかもしれないから、先に寝てろ』とかになるのではなかろうか。

 しかし、カイトには精一杯の言葉だった。

 メイにいつまでも起きていられたら、彼の方が心配してしまうのだ。

 忙しいのは、今日だけではないのだから。

 毎日毎日納期まで、彼女も一緒に弱らせるワケにはいかなかった。

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