冬うらら2

 こうしていれば、カイトが帰ってきた気配も分かるし、ベッドに入ってきた体温を、きっと彼女も感じることが出来るだろう。

 眠りという無意識下では、決して味わえないその感触を、メイは自分から手放したくなかった。

 でも。

 タヌキ寝入りしながらも、彼女は別のことを考えていた。

 帰ってきたカイトは、きっとそのままダイニングで夕食を食べるだろう。

 部屋に戻ってきて、お風呂に入って―― それからベッド、となると、1時間くらい先の話になるのではないだろうか。

 うっかり、その間に眠ってしまったら本末転倒だ。

 しかし、その考えは杞憂だった。

 どう考えても、玄関を開けてまっすぐ来たとしか思えないタイミングで、部屋のドアが開いたのである。


 ドッキーン!!!


 ど、ど、ど、どうしてー!!

 おなかはすいてなかったのだろうか。

 彼女は冷や汗をかいた。

 パチッ。

 ドアのところの電気がつけられる。

 瞼に白い光を感じたので、それが分かった。

「ふぅ……」

 長いため息。

 仕事で疲れたに違いない。

 こんな遅くまで働いているのだ、当然だった。

 でも、何だかその音は初めて聞いたような気がした。

 自分の知らないカイトを、垣間見ているような気がしたのだ。

 いや、目は使えないので、盗聴している気分の方が近いか。

 先にお風呂にするのかな?

 ドキドキしながら、彼女は次の彼の行動を待った。

 すると。

 えええ?

 考え違いでなければ―― カイトの気配が、近付いてくるような気がするのだ。

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