冬うらら2

 眠っている彼女に気を使っているのか、足音をおさえているようなので、はっきりとは分からないけれども、そんなカンジがした。

 気のせいよ、と自分に言い聞かせて落ちつこうとした。

 ギシッ。

 しかし。

 ベッドにかかった自分以外の体重に、心臓が飛び出しそうになる。

 間違いなかった。

 彼はいま、すぐそこにいる。

 タヌキ寝入りかどうか、確認しているのかな?

 などと、バカなことを考える。

 その頃には、もう刺さるほどはっきりと、カイトの視線を感じた。

 横を向いて眠ったフリをしていたメイは、いま、自分の顔が眺められているだろうことを知ったのだ。

 ぴくりとも出来ないまま、彼女はタヌキを続けた。

 そうだわ。

 彼女は、名案を思いつく。

 眠っているフリを装って、寝返りを打てば。

 反対側に顔を向ければ、バレないんじゃ、と考えたのだ。

 顔よりも、背中の方が分かりにくいに違いないから。

 うーんと、ちょっと唸るようなカンジの演出をつければ、きっとうまく乗り切れる。

 そう思った。

 彼女が、その三文芝居を始めようと、タイミングと勇気をハカリにかけていたら。

 そっと。

 頬に、触れられた。

 ビクッとしなかったのは、神様がメイの味方だったせいに違いない。

 本人としては、そりゃあもう、家出した心臓の行方を探さなければならないくらいだったというのに。

 その指の方に、神経の全部を持っていかれていたので。

 唇の方に。

 そっちに触れた感触が何なのか、すぐには分からなかった。


 え?


 ええ?


 ええええええええええー!!!!????


 そう。


 それは、まぎれもない―― キスだった。
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