冬うらら2
□20
 車をかっとばして家に帰り着く―― 深夜。

 車庫入れして車を降りる。

小雨がパラついているのは、運転している時から知っていた。

 冬の、冷たいイヤな雨だ。

 それを振り切るように、カイトは玄関先まで走った。

 玄関の明かりはついている。

 彼は、電話で帰ってくると言ったのだから、ついていて当然だった。

 けれども、いま彼が気にしているのは、明かりのことではない。

 この扉を開ければ。

『おかえりなさい』

 あの笑顔が、あるように思えた。

 しかし、あれほど強く、『寝ろ』と念押しをしたのだ。

 普通に考えたら、いるはずがない。

 なのに気になるのは、本当はそこにいて欲しいという希望が、心のどこかにあるからだ。

 彼は、緊張した指のまま、玄関のドアを開けた。

 シーン。

 予想通りというか、予想外と言うか。

 とにかく、そこには誰もいなかった。

 メイは、彼の言いつけを守ったのである。

 少し待ったけれども、どこからも玄関に向かって駆けてくる音は聞こえない。

 きっと、眠っているのだろう。

 うー。

 何て自分は、ワガママな生き物なのか。

 笑顔がないと分かるや、どうしても見たくなるのだ。

 いや、笑顔でなくてもいい。

 とにかく、いま何よりもメイに会いたかった。

 だから、用意してあるという夕食の方角ではなく、カイトは2階への階段を上がる。

 まず、眠っているのを確認してから夕食をとったって、遅いことはないと自分に言い訳をしたのだ。

< 99 / 633 >

この作品をシェア

pagetop