亀村山町の不思議な出来事
 天を捕獲するのにはそれほど時間はかからなかった。
 教室に入る寸前のところで、手にしていた俺の鞄を奪い去り、そのまま勢いに任せて逃げた。逃げたんだ実際。奴が追いかけてくるのはわかりきっていたからな。
 
予想外だったのはそれに朝っぱらから元気な風紀委員と陸上部、後なぜか高橋が追尾に加わったことだった。校内を走るのはいけない、それは知っている。が、捕まったら殴られる(天に)。
 
 個人鬼ごっこは1時限目が始まる直前まで続いた。

「…田所」
 担当が俺の名前を呼ぶ。しかし、俺は席にいない。
 ちらりと廊下を見ると、走り回る生徒と教師。
 いい加減諦めろ! お前ら授業どうした?!

 誰か助けてくれ! 俺は無遅刻無欠席を維持してる。邪魔をするな!

「田所欠席」
 担当の教師が主席簿にボールペンで書き込もうとする寸前だ。

 廊下の窓から走り飛びこむ俺。それはまさにトビウオの図。
「見てるんなら止めろよっ」

 これで欠席扱いされたらたまったもんじゃない。俺は確かに朝からいるぞ現在ここにいる生徒、教師が証明してくれるはずだ!

 悪態をつきながらも席につく俺に、周囲から暖かくもない拍手とある種の侮蔑の視線が投げかけられる。

「いや。あんまりにも楽しそうだったから」

 教室が揺れるような大爆笑の意味が俺には分からない。
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