亀村山町の不思議な出来事

昼に月見

 もう直ぐお昼の警報が鳴る。いつもと変わらぬ道で空を見上げた。
「あっ」

 空に浮かぶ雲にまぎれて、白い断片のお月さまが浮かんでいた。

 今日はなんていい日なんだろう。
 学校の先がけ進路相談会に、参加して、帰りに和菓子屋さん’SuGaR’で売り切れ必至の苺大福をなんと3つも買って帰る。進路相談会もそう悪いものじゃない。
 一人うんうんと頷きながら歩く。

 トテトテと歩いていると、地区が変わる。旧地区だが。
 私が通う東高校は旧亀山地区にあるが、私の家は旧亀町にある。最近、なんとかの大合併とかでここの地区も合併した。亀山、亀村、亀町がくっついて亀村山町になった。
 くっつけて大丈夫なんだろうか。特に生活に支障は…今のところないけど、喜んだのはお兄ちゃんとかの方だけだと思うんだ。
 それに、亀村は川の向こう側。そんなところと合併してもな。
 
 ところで、合併ってカッコいいけどくっつけただけだ。なんだ、難しく考えなくていいじゃない。気にしないでおこ。

 そうやって一人うんうんと考えていると、川から聞きなれた悲鳴が聞こえてきた。
「あっ早川さん」

 河童がどんぶらこっこと流れてゆく。足が上向いてるけど。
 大変だ。早川さん河童なのに泳ぎが得意じゃないんだ。

 河原に降りようとガードレールの切れ目を探す、その間にも早川さんはどんぶらっこっこと早くもない流れに流されていく。
 やっと見つけた切れ目からコンクリートの階段を下り大急ぎで早川さんの所に走る。鞄と大福を河原に置き、靴を脱いで川に入る。

 川開きにはまだまだ早すぎるこの時期、鳥肌が立った。

 それでも、流れてきた早川さんをつかみ、岸へと引きずる。案外重い。

「助かりましたよ、蒔子(まきこ)さん」

「いえいえ、こちらこそ。浅いところで溺れてくれて助かりました」

 浅いと思って安心したら、急に深みにはまってしまう。それが川。とくにこの川は
毎年誰か死ぬ。

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