あわいろ
一章
『昼、出るで』


高坂さんは、短くそう言ってタイムカードをホルダーから抜いた



いつもは隣の部屋で仕事してて、今日初めて同じ仕事で組むことになった先輩だ

口数はそう多くはないものの無口な人でないのは知っている。でも、普段あまり喋らないからこういう時緊張する


正直、困る



(威圧的だし)



怖い人ではないのだろうけど、高すぎると言っていいくらいのその身長があたしを委縮させる


今日のお昼だって本当は友達と約束してたんだ

お気に入りのオムライスのあるお店、久し振りにそこに行くはずだった




どんどん歩いて行ってしまう高坂さんについて行きながら、メールを打つ

謝罪と、その理由を簡潔に。少し考えて余裕がないことの証明と言わんばかりに絵文字をいっこだけ添えてみる





会社を出てもあたしは高坂さんの後をただついて歩く

会話どころか声すら掛けてくれない高坂さんに、心の中で溜め息と悪態をつく




(ランチくらいリラックスして食べたい)





でも仕方ないと自分を慰めつつ歩いていたら、目の前で高坂さんが突然振り返った






「ここ」

「へ?」







視線だけで示された先を見て、思わず目を瞠ってしまう






「・・・ここいつも混むんですよ」

「大丈夫やろ」







からりん、と店のドアを開けてさっさと高坂さんが入って行ってしまったのを呆然と見る


(無理だってば、ここらのランチの常識だっつーの)

(ていうかレディーファーストとかないわけ、もしかしてやなひと?)



無駄足とわかっているから余計に足が重い
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