あわいろ
高坂さんは小さくひとつ咳払いをした
「用事なかったら」
「・・・はい」
「いやもう言うてしまったから、こう、積極的に」
「そう、ですか」
生返事をして、あたしは自分の爪先を見る
考えてみたら、去年の秋に彼氏と別れてからそれっぽい話は何もなくて
誰かに好きだと言ってもらえることなんて、そうそうあるもんじゃない
(・・・嬉しくないといえば、嘘だ)
視界に入ってくる革靴の爪先をちらりと見る
同じ会社というのが不安でもあったけど、さっきの高坂さんの言葉を思い出して顔を上げた
(とりあえず、ね)
高坂さんを見上げて口を開く
「とりあえずその、後で嫌われてもいやなんで」
じっと見返されて、なんだか気恥ずかしくなって視線を逸らす
「いろいろ話とか、させて下さい」
前を向いて歩きながら言ったら、了解、と隣から声がした
「食べたいもん考えといて、なかったら俺考えるわ」
背中を軽く叩かれて、あたしは笑顔を作った
その日の仕事はトラブルもなく、定時を三十分過ぎた頃にはタイムカードを押すことができた
続く