悪魔のいる教室
だけど、茶色いアシメウルフは見当たらない。


「えっと。桜が葉桜になってるね、って言おうとしたんだけど……」


……聞き間違いか!!


どうしよう……恥ずかしい。
“桜”と“佐久間”を聞き間違えるなんて。


「あ、あー……ほんとだ。そっか。もうすぐ夏、だね」

「その前に梅雨じゃない?」


鋭いツッコミに、精一杯の平然を装いながら返事をする私の内心は、台風後のようにボロボロだった。


出来る事なら今すぐ家に帰って、そしてそのまま1年ほど籠もっていたい。


どっちにしろ、あと10分もしない内に悪魔は学校に来てしまう。

……どうしよう。

せめて私の心の準備が出来るまで、学校を休んではくれないだろうか……。


逆に、私に会った時悪魔はどういう反応をするんだろう。

今までと変わらないんだろうか。

それならそれでいいけど、なかった事にされるのは……なんか複雑。


だって、あれは一応、私のファーストキスで。


私も乙女だから、それなりに夢見てたシチュエーションってもんがあった。

好きな人と付き合って、何回目かのデートで……って、ちゃんと思い描いてた順序があった。


それが、あんな自分の事をどう思ってんのかもわからない男に狂わされてしまうなんて。
予定外もいいとこだ。
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