悪魔のいる教室
「おはよ」


そんな五十嵐くんの声を真っ二つに切り抜けるように、隣を横切った黒い影。


思わず息を飲み込んだ。


一瞬だけ、目が合った。


──……悪魔。


「俺らも、教室戻ろっか」


固まってた私はそう促され、おもむろに足を動かす。


斜め前の五十嵐くんより数メートル先に、いつもよりちょっぴり早歩きの大きな背中。

さらに先では、騒いでた生徒達が波のように道を空けていく。


後ろ姿だけで、心臓がドクドク鳴って息苦しい。


……どうしよう。

ついに、この時が来てしまった。


どうしよう……どうしよう。


もうすでに言い飽きた5文字を、頭の中で何度も何度も繰り返す。


──そうだ。

教室に着いたらすぐ席について、さっさと寝よう。


やっとの事で覚悟が決まったのは、ちょうど悪魔が教室に入ろうとしていた時だった。
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