悪魔のいる教室
「午前中の授業、全て不在? どういうこった」


そう言って、彼は笑った。


腹の底から出すようなしっかりした低い声を右耳で聞きながら、私は窓の外に顔を向けていた。

地面を見たり、葉桜を見たり、空を見たり。


どこもかしこも霞んで見えるのは、ガラス越しのせいじゃない。


「まぁ、数学の授業はちゃんと受けに来るあたり、お前の数学好きが証明されるよなぁ」


調子乗んな、バカ。


近くで響く声に、見えないのに勝手に脳裏に浮かんでくる彼の表情に、イライラが募る。


けど、そんなの太い声に返事はない。

それだけが唯一の救いだった。


暫くすると、大きな気配は離れていき、私は外から前へと目線を戻した。

こっそり横目でチラリ。


だるそうに椅子に腰掛けた悪魔が、机に突っ伏そうとしてるとこだった。


──あの後、朝のSHLが始まる前に荒々しく教室を出て行った悪魔は、今まで帰ってこなくて。

どこにいたのかはわからないけど、私は内心ホッとしてた。


ただでさえ緊張すんのに、悪魔がイライラしてるとなると、もうこれは精神的苦痛で倒れかねない。

だから、悪魔がなんで機嫌悪いのか気になりはしたけど、それ以上に安心が大きかった。


……それが。

悪魔は帰ってきた。
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