生徒会長様の、モテる法則
不覚にも、心臓がドキリと跳ね上がる。
ドキドキする!
落ち着け私の心臓!
私の上では、未だ牽制するような無言の張り合いが続いていた。
万物を凍り付かせるようなオーラを放つ要冬真と、嘘臭い笑みを浮かべる右京。
しばらく要冬真を見ていた彼は、私に視線を落としてさらに口元を緩めた。
「自分のとこの番犬さん、怖いなぁ」
嘘に嘘を重ねたような笑い方をする彼に違和感を覚えつつも、私は意味が解らず首を傾げた。
「番犬?」
そう零すと右京は顎で何かを指すような仕草をする。
それを追って振り返ると、要冬真を追い越してさらに後ろの教室のドアで視線が止まった。
「げっ…。彩賀さん…」
ドアから顔だけ出して、こちらを睨み付けている。
こちらというか、右京を射殺しそうな視線を寄越している。
オーラが具現化してドアの付近は黒ずんで見えるし、彼女も何かブツブツ呟いているようだ。
右京は、喉でククッと笑ってから私の頭を優しく撫でて歩き出した。
「またくるわ」
背中を向けたまま手を振って。
私は目だけで彼を見送ってから、手元の写真を見下ろした。
なんかこう、客観的に見せられると死ぬほど恥ずかしい。
――…ファーストキスだったのに
いや、正確に言うと私のファーストキスはあの憎き幼なじみだ。
ヤツが引っ越す日、去り際に濃厚なキス―…それこそ酸欠で倒れてしまいそうになって悔しくて泣きかけた屈辱的な思い出がある。
『葵…、あんた何した』
『ディープキス』
殺したくなった。
私の中であいつとのアレはなかった事になっている。
あんなの認めない。
好きな人じゃないと認めない。
今回のも無かったことにしよう。
「…、たく。変な奴に目つけられてんじゃねーよ」
不意に、力強く握られていた右手が自由になり私はその先を見上げた。
不機嫌な顔。
あれ…、助けてくれたのはいいけど…。
お…、怒ってらっしゃる?
要冬真は、私に目を合わせる事なく教室に入っていった。