生徒会長様の、モテる法則
それは充分モテるんじゃ…。
そんな私の考えを知ってか知らずか、右京はさらに続けた。
「昔はな、結構優しかったんやで。今の気丈な態度は周囲から距離置くためやろ」
扉の隙間から雨で気温の上がった湿り気のある風が流れ込み、梅雨独特の蒸し暑さを感じさせる。
要冬真の過去。
なんとなく気になってはいたけど。
「でもなぁ、幼なじみいるやろ、…悠海ちゃんやっけ?あの子が酷い嫌がらせ受けてなぁ、足に消えんくらい傷負わされて…会長ブチキレや。あ、そん時は会長やないな」
『今度海に手ぇ出したら、ぶっ殺す』
「いやぁ、怖かったわぁ…ゾクゾクしたで。ヒッロイ体育館がな、一瞬にして氷点下。全校集会ん時や。当時、は書記やったな確か。めっさ男前やん、惚れたわ」
沈黙を取り戻した空気に、雨音が響いて耳元が騒がしかった。
考えていたより、ずっと。
ずっと要冬真と海ちゃんの間には入る隙間がないくらい大事な繋がりがある。
例え海ちゃんが別の人を好きでも、大事な。
「ショックか?」
私が影を見上げると、いつの間にか立ち上がり此方を見下ろしていた彼が隣に腰を下ろした。
何がショック?
「別に、ショックじゃ…」
右京は私の頭をゆっくり撫でて笑った。
今まで見た彼の笑顔とは全く違う、自然な表情だ。
「素直やないなぁ、俺みたい」
声を上げる彼の目は、柔らかい。
右京の、全く異なった一面を見た気がして言葉を失う。
「人を好きになるってな、結構単純やで」
「テクニックが108式あるヤツに言われたくないわ」
私は頭に乗っていた彼の手を払い睨み付けると、豆鉄砲を食らったような顔をしてから「酷い言われようやな」と叩かれた手をわざとらしくさすった。
「ちょい放課後付き合い」
階段を降り始めた右京を不審な目で追いかけると、笑顔で此方を見上げる。
「別に、取って食わんから。茶ぁ飲みに行こうや茶」
彼が遠のく音を聞きながら私は、長いため息をついた。