生徒会長様の、モテる法則

近くにあったナフキンでテーブルを拭いた右京は、私にメニューを渡してからテーブルに肘をついた。



「好きになった時はな、まだ兄貴と付きおうてなかってんで」


店の奥に人が居るからだろう。
少し小さな音量で話す右京は、なんだか楽しそうだ。


「お、右京。メニュー決まったか?」



彼が突然話すのをやめて、視線を私の後ろに投げたと思うと背後から男らしい低めの声が聞こえた。


振り返ると、肩まであるだろう髪を後ろで一本に結んだ男性が此方に歩いてくる。
黒に近い茶色な髪に大人びた骨格、でもどことなく右京に似てる。


「鈴夏、決まった?」


「え、あぁ…じゃあ、これ」



突然右京に話しかけられ思わず適当に並ぶ写真の一つを指差した。



「お、嬢ちゃんお目が高いのう。うちの一番人気メニューじゃ」



笑った顔は、右京にそっくりだ。
勿論、普段見せる作り笑顔じゃなくて一度だけみた自然な笑顔に、だが。



「こんにちわ。右京の兄の左恵【サエ】です」


「こんにちわ」



「にしても、お前が女の子連れてきたん初めてやのう。今まで女の影が感じられんて、奈央が心配しとったけど、こんなベッピンさん連れてきよって」




女の影が…、ない、だと…!?



「兄貴、彼女の前でそないな事言わんといてや。はずいやん」

衝撃を受ける私をよそに、二人の会話は弾む。

口を挟む隙もなく、左恵さんは店の奥に引っ込んでいった。




「こら鈴夏、いつまで固まっとる」




デコをペシリと叩かれて我に返ると少しふてくされた彼がこちらを見ている。



「いや、あまりにも信じられない発言に戸惑いを隠せなかった」



「ほんま、ここ連れてきたん、鈴夏が初めてやからな」



「なんで連れてきたの、私を」


「俺ん事、知ってもらおう思うてな」



右京はまた茶をすする。

外では傘を差した人達が帰り道を急いでいた。
確かに、意外に普通な彼の性格に驚きもするのだが。


「“奈央”さんって、さっきの?」





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