生徒会長様の、モテる法則







私は引き返そうと、汚い空に背を向けた所でハタと思いとどまり足を止める。



ゆっくり、上を見た。



彼がいつもいるのは、この上。
この、天井の上。




――…もしかしたら、いるかも



だって私、あいつの居場所あそこしか知らないから。



心当たりは、当たってみないと。



もう一度扉を開け、今度は外に飛び出した。
その瞬間に頭から肩から、色が変わっていく。
額から落ちる滴は首筋に落ち込み、酷い湿気だと言うのに寒気がした。

扉のすぐ横にあるハシゴに手をかけ、雨の重力に逆らい頭を出してみたものの…



――…いない、か…





「なにやってんねん、こんな所で」




ハシゴを降りてため息をつくと同時に後ろから聞こえた関西弁は、思っていたよりもずっと明るかった。



「傘もささんと、風邪ひいたらどうするんじゃ」




前髪は、結ばれることなく額を隠している。
差し出された傘で、体に刺さる雨音が消え私は柄を握る長い指先の彼を見上げた。




「あ…あの…」



「透けとるで。ピ・ン・ク」



「ギャァァァ!」



両腕で胸元を隠し右京を睨みつければ、声を出して数回笑い首を傾げた。

小さなビニール傘は、彼の背中を濡らしていく。



「俺んこと、探してたん?」



身震いがした。


制服がピタリと背中に付き、体温を奪っていく。
なんか、最近水難の相出てるんじゃないか?私




「奈央さん、に、会ったの…それで」



「あぁ、結婚やろ?」




あっけらかんと、季節に似合わぬ乾いた声を上げた右京に、私は思わず目を丸くした。

そんな、そんな簡単に笑えるような事なの?


笑った表情は、いつも見る彼のそれ。
いくら好きな人に“笑ってほしい”からと言っても、恋人と…妻って、全然違う。

私はそう思ってた。




どうして、物分かりがいいの?




「俺も嬉しいわ、こないだ電話来てなぁ…」




――…素直やないなぁ、俺みたい




「強がり」







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