生徒会長様の、モテる法則
5-999 特別編・知らないフリ
「ちょっと、びしょ濡れなんですけど。傘から手離すとか、頭おかしい」
「しゃあないやん。俺の火照った体を冷やすにはあれしかなかったんや、それとも自分がどうにかしてくれたんか、ヌいてくれたんか」
「ざけんな!ただ泣きそうになってただけのくせに!見てみろもうフォローのしようがないくらいずぶ濡れだわ!水難の相だわ!」
「よー言うわ。初めからブラジャー透けてたくせに」
廊下に、水滴の足跡が点々と続く。
私と右京は見事にずぶ濡れで、完全に色が変わった制服が肌にべったりと張り付いていた。
「んなことより鈴夏。自分やっぱり知らんフリしてるだけやろ」
「なにが?」
「“好き”って、認めたくないんか?」
「だから、好きじゃないし」
誰の話をしているのかなんて、明確だった。
右京を軽くあしらって曲がり角に差し掛かり、私は思わず足を止める。
視界が長い廊下に変わった瞬間、目に飛び込んできたのは見知った完璧なプロポーション。
艶のある黒い髪、呆れたような横顔。
ヤツの視線は、彼女に向けられている。
「あー、タイミングすご」
右京は素知らぬ顔でポロリと言葉を落とした。
ホントに、嫌なタイミングだ。
――…息苦しい
要冬真の大きな手が、海ちゃんの頭を乱暴に撫でた。
『とうまに媚びる女の子ばっかりで…』
『トーマの事嫌い?』
――…ダメだ。
あいつの事をもっと知りたいなんて、私に笑いかけて欲しいなんて、触れてほしいなんて、思っちゃ駄目。
ヤツはそんなの、求めてない。
私は、仕事をするために生徒会に入ったんだから。
「鈴夏、どうしたん」
制服が濡れているせいで、肩を叩かれる音も何だか気持ち悪い。
これは、戦いだ。
一瞬でも気を抜いたら、汚い感情が堰を切ったように溢れ出す。
――…私は、人を好きになる資格なんてない
親父から、母さんを奪った私には。
私と要冬真の関係は、ただの生徒会長と書記なんだから。