生徒会長様の、モテる法則
「桐蒲?」
「技術学芸会実行委員長の」
いつかは接触に来ると思っていたが、昨日の今日かい!
「私は居ないって伝えて!!!!」
「へぇ。居留守なんて酷いじゃないか」
い…
「いや、あの…たった今異世界から帰った来た…みたいな」
いやぁぁぁ!
この声、この誰をも包み込む当たり障りの無いイントネーション。
振り返らなくても解る。
「ひさしぶり、鈴」
緩くかかったパーマは昔と変わらず、左目元にある泣きぼくろは彼の色気を引き立たせていた。
女装させれば100%性別を誤摩化せる細い肩は喧嘩強いとは思えない。
「僕がここに引っ越したの、知らなかった?」
わざとらしい、上品な言葉。
本性を隠すヤツの最大の武器だ。
手に汗をかいた気がして、スカートで拭う。
「い、いえ…全く」
「目も合わせないなんて、あんまりじゃないかな」
ふわりと、冷えた空気が辺りを包み込んだ。
こいつの、有無を言わさず人を従わせるオーラは凄まじい。
恐る恐る首の痛みを抑えて、彼を見上げる。
ニコリと花でも背景に携えそうな笑顔を向けるヤツに騙された老若男女は、数知れない。
桐蒲葵。最低最悪な幼なじみ。
当時はこの笑顔のまま、毎回壮絶な嫌がらせの応酬だったのだ。
「昨日は、うっちゃんがお世話になったね」
「あれはアンタが黒幕でしょ」
「うん、あ、そうだ!体育倉庫に閉じ込められた時、僕の事思い出した?」
葵は、嬉しそうに私に顔を近付け小さく首を傾げた。
皆それぞれの昼休みを取っていて、彼が居る事を気にする人はいない。
当然だ、傍から見れば害のない柔らかな人間なのだから。
彩賀さんが黙って彼を見ているだけ。
要冬真も学食に行っていていないし、ハルは不思議そうに私たちを見上げている。
やっぱり…、こいつだったのか。
撫子達を唆して、体育館倉庫に閉じ込めたの。
「鈴が泣き出してから、僕が助けにいこうとしたのに副会長さんに先越されちゃったからなぁ」