生徒会長様の、モテる法則
嘆く様に肩をすくめる葵の表情は、心の底から楽しそうだ。
その笑顔に、背筋が凍る。
こいつ…全然変わってない!!
「おい、なにやってんだ」
通るような声が重かった体を一瞬で軽くした。
葵の背後に現れた、要冬真の彼を見下ろす視線は少しだけ冷たい。
ヤツの登場に心のどこかで、安堵の息を漏らしたのは秘密の話だ。
「あぁ、生徒会長さん。僕、鈴の幼馴染みなの」
振り返った明るい葵の声に、ヤツは不機嫌そうに眉を顰めた。
「知ってる。H組は次体育だろ、早く行った方がいいぜ」
低くドスの利いた声、機嫌が良くないのは確かだ。
「あ、本当だ」
葵は惚けたように時計を見上げ笑顔でヤツにお礼を言って私達に背を向ける。
もう、来ないでくれ。
「じゃあ、また来るよ」
「くんな!」
私の心を読むような言葉を残して、葵は教室から出て行った。
「鈴夏さん、桐蒲くんとお知り合いだったんですね」
彼が出て行ったドアを、少し気に食わなそうに見つめていた彩賀さんは、長い髪を邪魔そうに後ろに結んで座ったままの私を見下ろした。
「昔学校一緒だったの。転校先までは聞かなかったからまさかここに居るなんて」
転校先くらい、聞いておくべきだった。
そしたら私だってこんな学校…、イヤ駄目だ。
親父が勝手に決めたんだから。
あれ、そもそもなんで私転校したんだ?
自営業と言えど金持ち学校に編入する金なんか、あったはずがない。
「嫌がらせの犯人はあの方だったんですね」
彩賀さんの不安な色の声に顔を上げると、品の良く開いたYシャツが目に入った。
机に乗り出したように、私に顔を近付ける彼女のシャンプーの匂いが鼻を掠める。
夏に傾き出した気候は少し鬱陶しかった。
クーラーが入っていても、梅雨から引っ張る蒸し暑さが肌に張り付くほど。
「でも安心なさって!犯人が分かった以上鈴夏さんには近付けさせませんから」
それでも、彼女の優しい暑苦しさは少しだけ頼もしかった。