生徒会長様の、モテる法則
1-4 三権分立
教室に入った瞬間感じたのは、昨日よりも凄まじい殺気。
それはクラスの女子からのもので間違いなく、体中に突き刺さるようなそれは、象を失神させてしまいそうなほどだ。
一瞬、入るのを躊躇い足を止めたが後ろから人が来るのが見えて仕方なく教室に足を踏み入れる。
転校初日から授業放棄した不良の私に、そんな殺気を送っていいのか?
私がそんな転校生を見たら速攻でソイツに“危険”のレッテルを張るが…。
野生のカンってやつですよ、金持ちはその辺鈍ってて駄目だね!
「おっはよーリン!」
空気を読まない奴がここにも。
席にカバンを置くと、高めの声がこちらを見上げていた。
昨日からマトモに話をしたのは、この隣の席の男だけ。
見るからに好奇心で話しかけているのが分かるほどの笑顔は、少しささくれ立った心を宥めてくれた。
が、名前を微妙に間違えられた。
「えーっと…」
「春!」
「ハル。読み方が違うんだけど」
「えー!スズよりリンの方が忍者っぽいじゃん!」
「どういう理由だよ。忍者じゃないんだけど」
「なんだよー。つまんない」
ハルは、眉尻を下げて本当につまらなそうな顔をした。
冗談で昨日から“忍者忍者”と言っていると思っていたのだが、私が忍者ではないと分かって本気で面白くなさそうだ。
金に近い細めの髪についた寝癖が、机の上で揺れている。
顎を机につけたまま、彼はHBの鉛筆で教科書に落書きをし始めた。
「そーいえばさぁ」
「ん?」
私がふと鉛筆の先を覗くと、やっぱり綺麗な文字で“せいとかい”と書かれている。
ひらがななのが残念な所だが。
「昨日、クゥに捕まったっしょ」
「クゥ?」
私が首を傾げると、ハルは“せいとかい”の下に“久遠寺秋斗”と書き加えた。
“あきと”、昨日の天使野郎か…。
「よく知ってんね」
「うん、クゥに聞いた!あとこれ渡しとけってさ」
急に元気になった彼は、飛び上がるように頭を上げると通学カバンの中から白い紙を取り出した。