生徒会長様の、モテる法則
「隙あり」
「いだっ!」
小突き方が尋常じゃないくらい全力だったのが腹立たしい。
鼻から血じゃなくて、眉間から血が出そうだ。
睨み付ける私を物ともせず葵はソファーの背に手を乗せ、こちらに顔を近付けた。
ヘラッと笑ったヤツに合わせてニヘラと笑ってみれば、すかさず、不細工。という言葉が飛んでくる。
――くそ、腹立つ
ユキ君は向かいでパソコンに指を乗せながら私達を時々チラッと確認している。
笑顔の睨み合いが続き、やがて葵の右手が伸びて私の顎に近付いた。
まるで、振り払ってくれと言わんばかりの、視界に映える白い手。
乾いた音は生徒会室に響いて、行き場の失った指先がヒラリと宙を待った。
「やっぱり鈴のその目好きだなぁ…全部僕の物にしたいや」
「私に執着すんの、やめてよ」
「執着?やだな勘違いしないでよ。僕は鈴の事好きなんだよ?」
「好きだぁ!?忘れはしない嫌がらせの日々!好きなら労るだろう、優しくするだろう!嘘付くな!」
思わず立ち上がり葵を指を指すと、彼はわざとらしく驚いたような色を見せる。
なんて白々しい!!
「ほら、僕ってすごく弱いじゃない?あ、精神的だよ、だからさ、好きな女の子に対して素直に感情を表せないっていうかさ。だから今言うよ」
ゆっくりと、腰を上げた葵は一年の間に少し背が伸びたようだ。
あの時は、たしか殆ど身長差はなかったはずだが。
彼を警戒するように、目で表情を追う。
「僕、鈴の事好きなんだ」
その言葉に、私は脳天から大岩を叩き付けられたような衝撃を受けた。
葵の背後に見えていた扉のノブが、タイミング悪く捻られる。
焦点がその扉に移り、私は目を丸くしたが葵は全て知っていたかのように振り返る事もせず、ニコリと笑った。
ゾクリと背筋が凍る。
慣れたように私の顎を取り一気に顔を引き付けたかと思うと、唇に絶望的で冷ややかな感触が走った。
「愛してるよ」
私の視線の先には憎たらしいはずの葵ではなく、眉をひそめた要冬真がいた。