生徒会長様の、モテる法則


「鈴夏さん?」


突然、ぼやけた視界の中心に彩賀さんが顔を覗かせた。
急激に焦点を合わせようとする両目が少し痛い。


「え、あ、なに?」



最近こういうパターンが急激に増えた。

心ここに在らずである事は明らかで、その原因が私の中にあるのだと言うのは、言わずもがな。


実際、私自身が混乱しているのだから仕方ない。


「最近ボーっとしていることが多いですわね」


彩賀さんの白い手が、私の額にあてがわれた。


熱は、ないと思う。

色々考えすぎて、知恵熱は出てるかも。




「最近、なんか自分の心境の変化についていけなくてさ。何だろ…今になって脳みそだけ急成長してる、みたいな…人類の進歩を実体験してるみたいだよ」



「退化だろ」



「だれが人間から類人猿…あ…」



私の嘆きに対して、息の吸う間にザックリ突っ込みが飛んできたので、ついいつものように立ち上がって呆れた声の方を睨みつけると、立っていたのは漆黒の髪。

蛇のような黒目がちな瞳が射るように刺さり、カエルのように固まった私を見て、困ったような細い息を吐く。




思わず謝罪を口走りそうになり、唇が震えた。


いや、別に怖いわけではないのだが昨日の機嫌の悪さは尋常ではなく、話しかければ睨み付けられ目を合わさなければ穴が空くほど睨み付けられ、合ったら合ったで睨み付けられるという、終始睨まれた状態だったわけで。

なまじ自分が原因であるから、逆ギレも出来ない。

私が仕事をしていなかったからいけなかったのだから。



――…どうしよう、ここは謝るか?全力で謝れば許してくれるか?


謝罪の言葉を述べるのに、私が口を開くと予想外に低い声が耳に飛び込んできた。





「昨日は、悪かった」




「え、あ…、はぁ…。え!?」



「悪かったって言ってんだよ」

それが、要冬真の声であることを理解するのに数秒の時間を有し、私が確認するようにヤツの顔をマジマジと見上げれば、心底嫌そうな顔でまた溜め息をついた。


なんて、威圧的な謝り方なんだろうか。





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