生徒会長様の、モテる法則
「メイドさんみたいじゃの」
「メイドかぁ、鈴知ってる?メイドって客の事“ご主人様”って言うんだよ」
知っとるわ!!
マジマジとスカートの揺れ具合を眺める右京と、ニコニコと笑顔で諭すかのような話し方をする葵。
腹が立ったので、それぞれのコメントをシカトして二人席に通すと案外大人しく座ってくれた。
「お決まりになりましたら、お呼びくださいね」
私は忙しいのだ。
構ってる暇はない、おまえ等はラッシーでも飲んでさっさと帰れ。
歩き出そうと踵を返した瞬間、腕が後ろに引かれ立ち止まった。
振り返ると、前髪を一本で留めている赤いゴムが目に入る。
真剣な瞳。
「注文決まってんで。俺」
それはあまりにも不似合いな場面だったが不意をつかれて何も言えないでいると、彼の口元が嬉しそうに緩んだ。
「鈴夏、チョーダイ」
「シネ」
「ガハッ」
座ったままの右京にラリアットを食らわすと、向かいに居た葵が嬉しそうに手を叩いた。
何喜んでんだドSが。
「わー、相変わらず容赦ないね。でも知ってる?メイドって…」
「知ってますご主人様」
二度も同じ事いいやがって。
葵が何か言い終える前にそう言ってやれば、肘をついて目元を細めた。
つまり、“ご主人様”と言え、という圧力だったのだ。
顎に置いた手の先にある泣きボクロが嫌みたらしい!
いや泣きボクロに罪はない。
わかってる!わかってるんだけどヤツを構成する全てのモノが人をバカにしているように感じるわけで。
「おかえりなさませご主人様メリケンサックにしますか金属バットにしますかそれとも――…」
最上級の笑顔で、両手を前で揃え、痛い痛いと嘆く右京を無視して、私は葵だけを見た。
一瞬のスキも、無駄に出来ない。
「鼻フックにしますかコノヤロォォ!」
下から振り上げた二本の指は、葵の鼻に入ることもなく、葵からのカウンターを食らうこともなく、横から伸びた細く長い指に捕まった。