生徒会長様の、モテる法則
「真面目に接客しろ!」
「いだっ」
私の腕を押さえたまま、反対の手で思い切り頭を叩かれ空に星が舞った。
見上げた先に見えた不機嫌そうな目は、すぐさま理不尽な客二人に移る。
右京はいつのまにか、違う店員を呼んで素知らぬ顔で注文をしていたが、葵はヤツを見上げて不思議そうに首を傾げた。
「申し訳ない、うちのが」
「なんで!?からかいに来たチンピラだよ!?」
「チンピラなんて失礼だな、鈴じゃなきゃこんな嫌がらせしないよ」
それが当然、かのようにサラリと恐ろしい事を言った葵は、付いていた肘を離して要冬真を見上げた。
恐ろしい、それなら許されると思ってる事が信じられん!!
「それが問題だろ!」
ホントに私に嫌がらせするの好きだなこいつ。
「だからさ、生徒会長さんも気にしないでよ」
手をヒラヒラと上下に動かす葵の表情は、屈託のない笑顔。
ホントに私以外には態度違う。
笑顔の裏に、微量に含まれる黒い部分を少しも出していない。
本当に善人の顔をするのだ、昔から彼は。
「おまえな、俺達はスタッフで相手は客なんだ。立場を弁えろ」
思いがけず冷たい言葉がかけられて、返す言葉が見つからずに足元に視線を落とした。
要冬真からの、こういうお叱りは初めてではないのに。
ため息一つに血の気が引く。
「…。ごめんなさい」
誰にも聞こえない早さで声が震えた。
呆れた?
幻滅した?
そう思うと、悔しくて悲しくて胸が苦しくなる。
間違った事は言われてないし、注意してくれるということは見捨てられていないと言うこと。
そう言い聞かせても、息が詰まったような苦しさが消える事は無い。
胸を逆さに撫でていく焦燥感。
客が他にも沢山居るのに大人気なかった。
ただ、呆れられたくなくて――…
「ほら、行くぞ」
――…嫌われたんじゃないかって
「…うん」
――…そんな下らない事で
ホント、下らない。